再就業看護師:事前の予想と現実のギャップ

新卒看護師と再就業看護師の1年以内離職率を比較すると、再就業看護師の離職率(11.8%)は新卒看護師の離職率(5.5%)の2倍とされており、再就業看護師の早期離職対策は大きな課題となっている。

一般的に社会心理学の研究において、再就職前の予想と経験する現実が一致している場合に「職務満足」「組織コミットメント」「役割の明確性」「職務継続」に繋がる一方、予想と現実の乖離は「離職意図」と関係があることが報告されていることから、再就職看護師の高離職率の原因を考えるために、再就職看護師における「再就業前の予想」と「経験する現実」の乖離に関する調査結果を紹介する。

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjsnr/41/4/41_20180127009/_pdf/-char/ja

A.予想と現実との「負の不一致」が「再就業の満足感」に及ぼす影響

『労働条件』『人間関係』『有用感と成長』に関して「負の不一致」を感じていた再就業看護師の「再就業の満足感」は低い結果となっている。

『看護ケア(患者都合に合わせたケアができる,納得いく看護ができる,ケア改善のための意見交換ができる)』について「予想より悪かった」と思っているほうが「再就業の満足感」が高いという結果が得られた。再就業看護師には,再就業前に「○○についていけるか」といった不安があるが,実際は「それほどでもなかった」といった安心感が「再就業してよかった」と感じさせた可能性がある。

『有用感と成長』は「再就業の満足感」への影響が最も大きかった。つまり,『有用感と成長(自分の経験を活かすことができる,新たな学びがある)』について,予想を現実が下回っていた場合に満足感が低くなっていた。再就業看護師には新たな勤務先で経験したことがない看護を経験して学ぶことへの期待があることから,回答者は「新たな学びがある」ことを予想していた可能性がある。再就業看護師がとらえる職務キャリアの構成要素に「実践の中での研鑽」があり,再就業看護師が成長を重要視していると思われる。

また,『労働条件』『人間関係』『有用感と成長』の「負の不一致」があると「再就業の満足感」が低くなることが示された。
なかでも「再就業の満足感」に最も大きく影響していたのは『有用感と成長』における「負の不一致」であった。自己の有用感と成長は組織コミットメントを促す重要な要素である。『有用感と成長』を重視して選択することが職務を継続していく上で有用と考える。

B.再就業看護師の「再就業の満足感」を高めるための方策

1.予想との「負の不一致」を小さくするような情報収集・情報提供

『労働条件』『人間関係』『有用感と成長』の3つはそれぞれ「再就業の満足感」に影響するため,どれも重要である。

再就業看護師の年齢,子どもの有無,受けた看護教育,取得免許,経験年数,再就業前の経験内容,離職期間,雇用形態等は多様であり、それぞれの価値観や事情に合わせて,多様な病院の中から自分に合った病院を選択する。「負の不一致」を起こさないためには,『労働条件(休みの取りやすさ,超過勤務時間の長さ,働きに見合った給与)』,『人間関係(働きやすい雰囲気,配属先での指導)』,『有用感と成長(自分の経験を活かすことができる,新たな学びがある)』の各視点から,再就業看護師が自分に本当に合った病院を選んで再就業できるよう情報提供する必要がある。

「内側での体験」は事前の役割認知に役立つことから,仕事の範囲や役割がイメージできるインターンシップの実施等が有用であろう。インターンシップの多くは学生が対象ではあるが,病院側には実施を,再就業看護師には参加を検討することが有用と考える。

もっとも,「病床規模が大きく,設置主体が国・公的病院で,手厚い看護師人員配置をとっている病院ほど,インターンシップへの取組比率が高い」ことから,再就業看護師が再就業を検討している病院がインターンシップを実施しているとは限らない。そのため,「外側の情報源」と「内側からの情報」を効果的に活用することにより事前の予想を再就業後の現実に近づけていく必要がある。

「配属先での指導」と「働きやすい雰囲気」からなる『人間関係』については,「外側の情報源のみを用いた群」は「それ以外の群」よりも「配属先での指導」に対する「負の不一致」が多かった。病院や看護部の広報,見学会,就職説明会,職業紹介事業者の紹介では「配属先での指導」のイメージがつきにくいことが予測される。

従って,管理者が再就業看護師を支える仕組み作りや働きやすい職務環境を整える努力をすることが求められる。再就業看護師が経験を積んできたのは異なる施設,異なる組織文化のもとである。「配属先での指導」においては,再就業看護師の経験内容の他,本人の希望や不安も考慮しシャドウイングやプリセプターなどの支援の実施,配属先の管理者と相談しながらの独り立ちの時期の決定など段階を踏んで戦力化を進めていく必要がある。

また、再就業看護師が個別に具体的な説明が受けられるのは,採用面接である。この採用面接の場で再就業看護師が求める『労働条件』『人間関係』『有用感と成長』を把握し,現状を開示するような情報提供を行うことが,予想と現実との「負の不一致」を小さくするために有効と考える。

2.採用面接における管理者の役割

『労働条件』,『人間関係』は再就業看護師に限らず職務継続を支える要素である。『労働条件』については,広報,説明会等の不足部分を,採用面接で補う必要がある。再就業看護師の入職後のトラブルは面接時の話し合いと異なった時に発生することが多いため,管理者は採用時に無理な約束をすることは望ましくない。管理者には,採用面接の際「再就業看護師と配属先をつなぐ」,「再就業看護師の未来と組織をつなぐ」のふたつの役割を意識することを提案する。

a.再就業看護師と配属先をつなぐ

採用面接での約束を反故にしないためにも採用時に提示した条件は,配属先で実現可能なものを伝え,履行されるよう調整する必要がある。

看護師の離職理由の上位に「休みの取りにくさ」「長時間勤務」があり,再就業看護師はこれらを情報源より吟味して再就業先を決定したはずである。ところが実際は「休みの取りやすさ」「超過勤務時間の長さ」「働きに見合った給与」の不一致が「再就業の満足感」を下げていた。これは『労働条件』の実際を,再就業看護師が詳細に確認しなかった,採用面接担当者が説明しなかった,または採用面接担当者が配属先の実態を知らなかったなどの可能性がある。

2008年に日本看護協会が実施した時間外労働等の実態調査の自由意見によると,20歳代から50歳代の全年齢階層で「時間外の常態化」「サービス残業」が第1位と第2位を占めている。もし,「時間外の常態化」「サービス残業」が存在しそれを採用面接で伝えない場合は,『労働条件』の負の不一致が生じ,再就業看護師の「再就業の満足感」を下げることになる。

b.再就業看護師の未来と組織をつなぐ

管理者は採用面接時に再就業看護師が求める看護や経験が自分の病院で可能か,さらに長期的なキャリアデザインを確認しておくことも重要である。

再就業看護師の『自己の有用感と成長』が「再就業の満足感」に大きく影響していること,2年目以降の再就業看護師の離職意図を減らす主な因子として『専門性の発展の機会』が報告されていることからも,キャリア開発への取り組みが,結果的に再就業看護師の「再就業の満足感」を高めるのに有効と考える。
再就業看護師はこれまでの経験をもとに自分のキャリアの方向性を考え再就業している。また本研究の回答者の多くは自分の実践したい看護や身につけたい看護を求めて再就業した転職者であり,78.4%は経験年数が5年以上である。

看護にコミットし向上心を持つ経験者を取り込むことは,再就業先の病院にとって単なる経験者の補充以上のものとなる。病院が再就業看護師のキャリア開発に取り組むことは,再就業看護師にその未来像を自分たち組織の中に描かせることであり,自分たちの組織に迎え入れ,つなぐことになる。組織の一員となった再就業看護師が経験を活かし,さらに新たな学びを求め活き活きと働くことは再就業先の病院の大きな力になっていくと考える。採用面接で再就業看護師のキャリアデザインを確認することは,その第一歩である。

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